訃報です

デイリーポータルZをいつも読んでくれている皆様にお知らせです。ライターの大塚幸代さんが亡くなったとの連絡をもらいました。突然のことでどう受け止めていいかわかりません。

2002年、デイリーポータルが始まったときから執筆参加して共にサイトを作ってきてくれました。この状況についてコメントする言葉が見つかりませんが、まずは感謝を、これまでサイトに残してくれたものを振り返りながら、大塚さんに感謝をしたいと思います。

ありがとうございました。

デイリーポータルZ 林雄司

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ご親族からメッセージを頂きましたので以下に記します。

「この度はデイリーポータルZを毎日楽しみにされている皆様に大変ショックなご連絡となり申し訳ありません。

次回の更新で予定していた「仮題駒込調べ(本人はもう少しキャッチなタイトルをつけていたことでしょう)」も取材を行う前に、藤枝奈己絵先生の作品が面白いので人気爆発をまっていたり、また山田孝之の北区赤羽の最終回含めた3話に感動し、収録されるアナザーサイド目当てでブルーレイボックスを予約して、届く前からイベント抽選に戦々恐々としたり、いろはに千鳥から千鳥にハマり、吉本のイベントに通いはじめたりしていた直後の出来事でした。

私たちも突然の出来事に整理ができておりませんので、皆様も動揺をしてしまうかと思います。本人もさぞかし無念かと思います。これまでご愛読、応援してくださった皆様ありがとうございました。」

 今日の午前中、この記事がアップされた。現デイリーポータルZのライターで、以前はフリッパーズギターの同人誌を作ったりQuick Japanで編集をやっていたためか、ネットの一部で話題になったようだ。僕はもう何年もこの人の書く文章を読まなくなっていたから、この記事のはてなブックマークのコメントを読み、最近は出身地である埼玉のうどん記事の人として認知されていることを知った。

ほどなくしてはてな匿名ダイアリーに「大塚幸代さんが嫌いだった」(魚拓)というエントリが登場、ブックマークを集めた。現在は

心中のごちゃごちゃを書きなぐったら思いのほかブクマがついてしまいました
削除することにします、不快な思いをされた方々には申し訳ありませんでした

 という謝罪とともに消されている。

 

大塚氏の名前で検索すると上位に

というのが出てくるような人で、あまり細かく付け加えることはないのだが、言ってみればDPZの暗部というかサブカル女性の一典型であるライターが急死したということでセンセーショナルな話題になったのだろう。どのへんが一典型かというと、匿名ダイアリーに書かれていたように

女子になれないとか言いながら、他の女性ライターの誰より女子女子しい
何かを試してみたり、どこかに行くような企画は決まって中途半端(しかも自分語りが入る)
ガーリーフォトという名の無駄に鮮やかな見辛い写真
脈絡なく差し挟まれるサブカルネタにもうんざりした

といったようなことだ。

 DPZの記事でも本人が繰り返しアーティスト写真のようなものを撮ったり、顔出しでアーティストごっこをしていた。誰がおもしろがっているのかわからない記事を繰り返し掲載するDPZは、なかなかに不思議だった。

これらのアーティストごっこの過程はたとえば、

@nifty:デイリーポータルZ:架空バンド、クロスレビュー大会!

という記事でまとめられている。その中の一つの記事タイトルは「カヒミ・カリィになりたかった」と身も蓋もないストレートなものだ。

女の子と男の子と、元・女の子と元・男の子のみなさん、こんにちわ。
33歳の元・女の子、中古オリーブ少女のライター大塚です。

 こういう書き出しを恥ずかしげもなくできるのはたしかにある種の才能なのかもしれない。アーティストになりたい、でもなれない、という自意識をもてあまし続け、20代はサブカル特有の選民意識とともにはしゃぎ、30代で徐々に苦しくなり、43歳で死去。冒頭の親族の文章には「突然の出来事」とあるだけで死因については触れていない。察しろ、ということだろう。

僕がDPZに掲載される大塚氏の記事を読まなくなったのは、この08年5月の記事がきっかけだった。

@nifty:デイリーポータルZ:お金を使わない1日(リアル)

一日の生活を金も電気も使わずに過ごすという企画自体の出来の悪さは置いておくにしても、内容がひどい。生活の記録として取ったメモをそのまま載せているのだが、時間が経つほどに字が震え極端にお腹が空くと聴覚が変わる」「雨音は音楽のように聴こえた」と言いだし、トランス状態&暴言モードに入ってきたため自主規制するからと画像はモザイクだらけに。

僕はこの記事のブックマークに「筆跡学というのもあるのだし、こういう代物を公にするのは本人に自覚症状がなくてもまわりが掲載を控えてやるべきではないか。ネタの出来不出来以前の問題だ」とコメントした。単純にどうしようもなくつまらないし、こんな異常な精神状態を書いたメモを記事として掲載するDPZに不信感を持った。

サブカルの人は深刻ぶっているわりにはとても気軽に「鬱が」「体調悪くて」「死にたい」と言うが、病的な精神状態が明らかなら冗談ではすまない。

先ほどツイッターを読んでいたら、最近は以前とは大きくルックスが変わっていて驚いたと言っている人がいた。DPZでよく顔出ししていた頃(画像は載せません)は長身かつ痩身だったが… この人はDPZとはまれぽ.comが昨年12月におこなった服のコーディネート対決の記事を読んでびっくりしたのだという。

DPZの方に大塚氏が書いた「1円の服!? 横浜激安買い出し紀行」という記事では、あれだけ顔出ししまくっていた頃とはうって変わり自分の画像を一枚も載せていない。昔から替えていないライター紹介の顔写真だけだ。一方はまれぽ.comの記事にはふつうに載せられている。たしかに別人のように太り、メガネにショートカットというある種のサブカル人のコスプレのようだ。太った理由がうどんか薬の副作用かはわからないが、コーディネート対決にもかかわらず姿をまったく出さない不自然さも承知の上だったのかもしれない。

<関連> 大塚氏が@ニフティに掲載した摂食障害の告白。2014年9月18日記事 

 

サブカル系女性ライターのあがりとはどういうものだろう。森茉莉向田邦子のようなエッセイを書き、同性から憧れられることだろうか。林真理子のように先生と呼ばれながら華やかなパーティーに出つづけることだろうか。しかし実際は楽しい20代が終われば尻すぼみになっていくばかりだし、かといってサブカルの中心地・東京に住んでいること自体がアイデンティティなのだから実家に帰るわけにもいかない。第一、実家に帰ろうとしてももう居場所なんかないのだ。同性の似た者同士で傷の舐めあいはできても貧乏は貧乏だ。服用する薬をツイッターやブログ、フェイスブックに列挙し、病み自慢をしているうちに行き止まり。いったいどうしろというのか。

「自意識の肥大」という現代の病理にさいなまれるサブカル女性を食い物にする文化人が話題になる昨今だが、そんなゲスな人間にすら相手にされなくなっても人生は続く。小さくなる気配をみせない巨大な自我と、惨めに老いていく現状との乖離を年々重く背負いながら。ぽっきり折れるなというほうが酷というものではないだろうか。